特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

第9章「企画」 4.大捜査線

11月15日・日曜日の早朝、「大捜査線」実行委員会のメンバーは、秋田市御野場の長谷川の家から数台の車に分乗して、秋田港に隣接するセリオンプラザへ向かった。

空は曇り、晩秋らしく肌寒さを感じる天候だった。

彼らはセリオンプラザに到着すると、多目的ホールに入った。無人のホール内には前日準備した机とイスが並んでいた。数時間後には、そのイスは結集した「捜査員」によって埋められるはずだった。メンバーは、参加チームの受付、配布物の準備、イベント開始の手順確認などそれぞれの担当作業に取りかかった。

9:00、開場・受付開始の時刻となり参加者が到着し始めた。参加者たちは受付で捜査員証やルールブック、「始まる前に必ず読んでください!読まなきゃ不利!」と書かれた「『大捜査線』STORY」などを受け取ると、捜査本部となる多目的ホールへ向かった。

その時、長谷川敦はホールのステージ横にある放送室にいた。放送室には小窓があり、そこからホール内を見ることができた。長谷川はその小窓からホールの状況を見ていた。確かに200人を超える参加申込みを受けていたが、本当に人が来るのか最後まで心配だった。ホール入口の扉がカラカラと開いて捜査員たちが次々に入って来る姿を見た時、長谷川は感激して体が震えた。

ホールの捜査員は時間が経つにつれ増えていった。イベント開始時刻の9:30、54班217人の捜査員たちが捜査員席に就いていた。多くは秋田市内からの参加だったが、遠く大曲市や角館町、能代市からやって来た参加者もいた。200人を超える捜査員たちがホールに結集した光景は壮観だった。放送室の小窓からそれを見た長谷川は、現実に人が集まったことに感激すると同時に、それとは相反する感情にとらわれていた。自分たちが本当にこれだけの人数を動かすゲームを実行できるのか、ここに集まった参加者たちを本当に楽しませることが出来るのか。それを考えると恐怖にも近い緊張感に襲われたのだ。彼は一瞬、全てを投げ捨ててこの場から逃げ出したい気持ちに駆られた。もちろん、そんな事はできないことは分かっていた。

長谷川は放送室内にいた斎藤美奈子に目配せした。美奈子は放送室からアナウンスした。

「本日は参加行動型ロールプレイングゲーム『大捜査線』にご参加いただき誠にありがとうございます。はじめにトトカルチョマッチョマンズ代表、長谷川敦より挨拶がございます」

美奈子のアナウンスで、トトカルチョマッチョマンズが準備してきたイベント「大捜査線」がスタートした。

長谷川は参加者たちの前に出て挨拶をした後、ゲーム開始を宣言した。

「それでは、大捜査線ゲームを開始します。」

それを合図にステージの幕が開き、架空の警察・秋田市警察本部の合同捜査会議が始まった。ステージ上には捜査の中心となる警察官たちがいた。彼らはスーツ、ネクタイ姿だった。

伊藤敬が扮する藤井巡査部長が捜査会議の進行役だった。藤井にうながされ、長谷川扮する寺崎龍一郎捜査本部長が話した。

「この度の脱獄事件は新たな事件の引き金にもなりかねません。早急なる事件解決を切に願うものであります。」

寺崎本部長の言葉を受けて、進藤岳史扮する権藤警部が配布済みの「『大捜査線』STORY」を基に事件の経緯を説明した。事件のあらましはこうだった。

 

11月14日、つまりこの捜査会議の前日、秋田港を拠点とする麻薬シンジケート「ホワイトヘッド」のリーダー、前沢明の姿が秋田空港で見かけられたという情報が寺崎警視正に寄せられた。寺崎はただちに捜査本部を設置し、前沢の行方を追った。

日付が替わり11月15日未明、拘置所に収容されていたホワイトヘッドの幹部4名が脱獄したという衝撃的な報告が舞い込んだ。幹部の4名とは、組織の№2・呉洋一、高須健太(あだ名はガルベス)、流隼人、梅野涼司だった。

寺崎本部長は、脱獄した麻薬シンジケートの幹部4名、およびリーダー前沢明の逮捕のため捜査員を増員した。その増員された捜査員こそ、このホールに結集した刑事たち、すなわちイベント参加者たちだった。逃亡した幹部および前沢の写真は捜査員たちに公開された。

権藤警部がそこまで説明した時、何者かがホールに侵入して来た。奈良真扮する逃亡中の幹部・流隼人だった。流隼人は頭から血を流し、手には拳銃を持ってふらふらとステージに近づいてきた。藤井巡査部長が銃を構え立ちふさがった。その時、流は「サンドマーン!」と絶叫しながら拳銃を宙に向け発砲、倒れた。藤井が駆け寄ると流はすでに死んでいた。

流隼人の死体がホールから運び出され、検死が行われている間に、斎藤美奈子が放送室から参加者たちにルールおよび注意事項を説明した。

説明されたのは次のようなルールだった。

・捜査員証は見える所に付けておくこと。
・コンビニの電話帳の中に犯人逮捕の手かがりとなる「怪文書」があるが、怪文書の持ち出しは禁止でありその場でメモを取ること。
・犯人の写真と一致した人物を見かけた場合はすみやかに逮捕すること。
・犯人逮捕の際は「○○さんですね」と声をかけると素直に逮捕されるので、決して犯人に暴力をふるったり脅迫を加えたりしないこと。
・犯人を逮捕した場合、何かトラブルが発生した場合は捜査本部に電話をすること。
・捜査班が事件を解決した時点でゲーム終了となる。16:00になっても事件解決の連絡が入らない時は、速やかに捜査本部まで戻ること。
・交通安全に十分気をつけること。
・一般市民の迷惑にならないようにすること、などである。

美奈子の説明に続いて、藤井巡査部長から流隼人の検死結果が報告された。流の死によって捜査員たちには次の手かがりが与えられた。

①流が所持していた銃はピエトロ・ベレッタM93M、9㎜口径
②流の左手には「市内のコンビニの電話帳を探せ」という怪文書があった。前沢が残したものと推測される。
③流が叫んだ「サンドマン」という謎の言葉。状況から前沢がサンドマンの情報を持っているらしい。
④流殺害に使用された銃は、ドイツ製ワルサーPPK38口径。
⑤流の肩には「47」という数字のタトゥーがあった。

「よし、コンビニだ!コンビニの電話帳を探せ!捜査員各位の検討を祈る。」

そう言う権藤警部の言葉を聞いて、捜査員たちは寒空の下、セリオンプラザから出動し秋田市街全域へ散って行った。

「笑う大捜査線」と同様に、捜査員たちに最初に与えられる手かがりはコンビニの電話帳に挟まれたA4版の「怪文書」だった。今日の未明に実行委員会のメンバーが手分けして仕込んだものである。各怪文書には「注:持ち出しは禁止です。メモを取りましょう」という注意書きが書かれていた。

ただし、怪文書は数が多く記載された内容も多種多様であり、事件解明に役立つものもあれば、何の役に立つのかまったく分からないものもあった。

例えば、「なな子はいつも泣いていた」、「ガルベスは女にゾッコンだ」、「デルワナワンガー」という怪文書を発見した捜査チームはそれが何を意味するのか首をひねりながら、次の手がかりの探索に向かった。

一方、「薬の売人は10:30、アンダーバイパスの上に居る。」または、「梅野は10:40にアンパスでクスリを買う。」という怪文書を発見した捜査班はラッキーだった。どちらも10時30分ないし40分頃、逃亡したホワイトヘッド幹部・梅野がアンパス付近にいることを告げていた。「アンパス」とは、秋田市外旭川にある道路が鉄道線路の下をくぐる立体交差の地点である。アイテムに記載された文書を正しく解読した捜査班は外旭川・アンパスへ急行した。

彼らは、そこでで魚肉ソーセージをむしゃむしゃ食べながら歩いている男を発見した。男の顔は、資料の梅野の写真と一致した。捜査班の刑事は男に語りかけた。
「あなたは梅野さんですか。」
「そうだ。」

その男は平然と答えた。刑事は男に告げた。

「あなたを逮捕します」
こうして逃亡犯・梅野は逮捕された。

捜査班から携帯電話で「梅野逮捕」の報告を受けた寺崎本部長は応答した。
「ご苦労!すみやかに捜査本部へ連行してくれ。」
同時に実行委員会スタッフは、手分けして全捜査班の携帯・PHSに「梅野逮捕」の情報を伝えた。

捜査本部のあるセリオンプラザに連行された梅野は、別室へ連れて行かれ取り調べを受けた。その供述証言の内容は、書面として捜査本部の壁に貼り出され、ビデオテープにより捜査情報として公開された。これが捜査チームに与えられる次の手かがりとなった。各捜査チームの中で捜査本部に待機している捜査員は、供述証言の書類とビデオ上映により得られた情報を、車で移動中の仲間に携帯電話などで伝えた。

逮捕された梅野の供述証言により、次の情報が明かとなった。

①「ガルベス」というあだ名を持つ高須には「苗場ハルナ」という女がいること。
②梅野の体には「10」という数字のタトゥーがあること。
③梅野は「サンドマン」に極度の恐怖を抱いていること。

また、怪文書の中には「ガルベスの女は11:15、サンバードにいる」、「ガルベスの女は11:00頃、茨島遊技場に現れる」などの内容が書かれたものがあり、これらの情報を結びつけることが出来た捜査チームは高須の逮捕に近づくことができた。ある捜査チームがショッピングセンター・サンバード長崎屋で張り込んでいると、「苗場ハルナ様、いらっしゃいましたら、高須様がバッティングセンターでお待ちです」という店内放送が流れた。この放送は「大捜査線」実行委員会のメンバーが事情を説明せずに店に放送を依頼したものである。この店内放送を聞いて近くのバッティングセンターに向かったその捜査班は、そこで安田琢が扮する高須を逮捕することができた。

その班は、偶然にも伊藤敬の姉が職場の仲間と組んだ捜査班だった。

石井誠が扮する組織の№2・呉洋一の逮捕は、まったく実行委員会の想定外の形で行われた。伊藤敬と進藤岳史のストーリーでは、呉には病気の妹・なな子がおり、その妹を尾行した捜査班によって秋田大学病院の駐車場で呉が逮捕される設定だった。ところが、呉に扮した石井誠がまだ大学病院に移動する前、近くのスーパーマーケットの駐車場で待機している時に、写真から呉洋一と気づいた捜査班により逮捕されてしまった。

こうしてホワイトヘッドの幹部4名のうち1名は捜査員たちの目の前で殺害され、残る3名は逮捕された。しかし、捜査員たちは組織のリーダー・前沢を逮捕することは不可能だった。前沢明の死体が太平山で発見されたからである。前沢はサンドマンによって殺害されたと判断された。山中に全裸でうつ伏せになった前沢の死体の写真が捜査員たちに公開された。

一方、高須の逮捕と供述により次の情報が捜査員たちに与えられた。

①苗場ハルナの写真(高須の所持品)
②「サンドマン」とは覚醒剤の取引相手であり正体は不明。正体を調べようとしたホワイトヘッドのメンバーたちは逆にサンドマンに命を狙われている。
③サンドマンの情報は前沢の持っている金庫の中に入っている。
④高須には「59」という数字のタトゥーがあった。

 

また、逮捕された呉洋一には「7」という数字のタトゥーがあった。そして、呉は前沢の金庫を持っていた。金庫は、流、梅野、高須、呉のタトゥー、「47」、「10」、「59」、「7」の組み合わせで開いた。金庫の中には次のものがあった。

①地図らしい暗号図
②写真立てに入っている前沢の妻の写真。人物の背景にはJR羽後牛島駅のプレートが写っている。写真の裏には、70個の漢字が縦7列・横10行に並んでいる。
③前沢の遺言
④「マムシ」「ヤマカガシ」「アオダイショウ」という3人の情報屋との連絡方法

「この金庫を開けた者へ」というタイトルの書かれた前沢の遺言には、前沢が「サンドマン」と呼ばれる人物の正体をずっと調べていたこと、そのことにより逆にホワイトヘッドのメンバーがサンドマンに命を狙われることになったこと、サンドマンは極めて危険な人物であることなどが記されていた。

時刻は午後1時を過ぎていた。ここまでに麻薬シンジケート・ホワイトヘッドのリーダーおよび幹部たちは全て殺されるか逮捕され、捜査員たちに残されたターゲットは事件の黒幕と目される「サンドマン」と呼ばれる人物のみとなった。

「怪文書」、「逮捕された犯人の供述」に続く、捜査の手がかりは情報屋などの人物から与えられる情報だった。そうした人物の一人、前沢明の妻・由加子に扮した実行委員会メンバーの鈴木美咲は羽後牛島駅で捜査員が来るのを待っていた。美咲の前には何人かの捜査員が現れたが、中には何も話しかけずにそのまま立ち去ってしまう者もいた。しかし、勇気を出して美咲扮する前沢の妻・由加子に話しかけた捜査員は、由加子から前沢が送ってきたというシートを渡された。

前沢の妻の他にも、捜査班に事件解明のヒントを与える3人の情報屋がいた。

その一人、伊藤次郎扮する情報屋「アオダイショウ」はその頃、秋田駅前の携帯電話ショップの前でティッシュを配っていた。捜査班が接触すると、アオダイショウは

「ヤマカガシは流の双子の弟だ」

と言ったきり、黙ってしまった。しかしアオダイショウが配っているティッシュを良く見ると裏にペラペラのプラスチックシートが入っており、意味深げな黒丸が所々にあった。それを見た捜査員はピンときた。

「前沢の妻の写真裏にあった漢字の羅列だ」

漢字の羅列にそのプラスチックシートを重ね合わせると、4通りの文字の組み合わせが浮かんだ。意味がとれるのは「羽後牛島駅」そして「電光掲示板」だった。

奈良真は秋田市八橋(やばせ)にある文教堂書店で本を立ち読みしていた。彼は朝の捜査会議で死んだ流隼人の双子の弟・流清人すなわち情報屋・ヤマカガシに扮していた。情報を解読し文教堂に行った捜査員は、死んだはずの流隼人にうり二つの男を発見した。その男、「ヤマカガシ」こと流清人は捜査員に言った。

「電光掲示板を見てみな。暗号の解読方法の一部が放映されるはずだ。それと、カギを手に入れたらイオンに行けってよ。」

もう一人の情報屋は捜査員の前に姿を見せることはなかった。その情報屋・マムシは電話を通して情報を与えるのだった。ショッピングセンター・サティの駐車場でフロントガラスに「白い蛇はデルワナワンガー」という文を発見した捜査員は、それを頼りにツタヤの公衆電話からマムシに電話した。マムシはその公衆電話から掛かった電話にしか出ない。

捜査員の電話にマムシはこう聞いてきた。

「白い蛇はどこに行った?」

捜査員がサティ駐車場でメモした言葉を言った。

「白い蛇はデルワナワンガー」

それに対してマムシは言った。

「よし、お前は合格だ。クロヒョウ(前沢明のあだ名)から預かった伝言を教えてやろう。ヤマカガシは流の双子の弟だ。そして電光ニュースを見ろ。そしてこれはサービスだ。サンドマンのタバコはゴールデンバットだ。」

マムシはそれだけ言うとすぐに電話を切った。

情報屋たちからは、「電光掲示板」「羽後牛島駅」というキーワード、それからイオンのコインロッカーに何かが隠されているという情報を得ることができた。「羽後牛島駅」とは前沢の妻・由加子のいる場所を示す情報である。最後に残った事件を解くカギは、秋田駅前にある電光掲示板とイオンのコインロッカーだった。

いくつかの手がかりを組み合わせて電光掲示板までたどり着いた捜査員は、掲示板を見て興奮した。そこには「サンドマンのアジトは、1の11の3階だ。」という文字が流れていた。

「1の11」はアジトの住所を示していると思われるが、これだけでは町名が分からない。その手かがりは、鈴木美咲扮する前沢の妻・由加子が与えたシートにあった。そのシートは重ね合わせると地図が出来上がるようになっていた。その地図は秋田市の大町、川反地区を示していた。

それら情報を正しく組み合わせ、解読して川反の「レディ」というバーがある飲食店ビルの3階、つまりトトカルチョマッチョマンズが拠点としている「ふるさと塾」に踏み込んだ捜査員たちは、そこに男女一人ずつがいるのを発見した。女の顔は高須が持っていた苗場ハルナの写真と一致した。ただし女の正体は侵入捜査を行っていたアメリカの連邦麻薬取締局・DEAの捜査官、ハルナ・キャロライン・苗場だった。男もエンリケ・コロボ・鎌田という名のDEA捜査官だった。二人のDEA捜査官は自分たちもサンドマンの情報を追っていたことを伝え、踏み込んだ捜査員に一つの鍵を渡した。

情報屋の一人、ヤマカガシから得られたイオンのコインロッカーに何かが隠されているという情報を思い出し、イオンに向かった捜査員はDEA捜査官から渡された鍵で一つのロッカーを開くことに成功した。その中には、カセットテープとサンドマンの似顔絵と思われる図があった。その似顔絵は朝の捜査会議で事件の経緯を説明した権藤警部の顔だった。

捜査時間切れが迫る午後4時、最後の手かがりを解明した秋田市の大学生たちの捜査班は捜査本部に駆けつけ、寺崎本部長らに権藤がサンドマンだという証拠を提示した。

捜査本部は、全捜査班を本部へ呼び戻した。

コインロッカーにあったカセットテープを調べると、それはサンドマンがホワイトヘッドのリーダー・前沢明と電話で会話した声が録音されていた。サンドマンの声紋は権藤のそれと一致した。権藤警部は警察組織の一員でありながら、麻薬取引に手を染めホワイトヘッドと覇権を争っていたのだ。

「権藤警部、あなたを流隼人および前沢明の殺害などで逮捕します。」

こうして事件の真相にたどり着いた捜査班により黒幕・サンドマンは逮捕され、捜査に幕が下ろされた。

 

再び、朝の捜査会議の時のように全捜査員がホールに集結していた。彼らが居並ぶ前で表彰式が行われた。黒幕・サンドマンの逮捕に至った捜査班には寺崎本部長から賞金10万円が贈られた。

実行委員会が参加者たちに「刑事(デカ)になりきる」ことを勧めたこともあって、捜査本部に結集した「捜査員たち」の中には、刑事らしい姿にこだわった参加者もたくさん見受けられた。その中には、テレビドラマ「あぶない刑事」に影響されてコートとサングラスで決めている「刑事」いた。そんな刑事たちの中から、今日一番刑事になりきっていた捜査班に「なりきり賞」が贈られた。

 

実行委員会メンバーたちはセリオンプラザを後にする参加者たちを見送った。

イベントの途中では想定外の展開はあったものの大きなトラブルもなく、最後の黒幕逮捕まで捜査はほぼ敬と岳史の描いたストーリーどおりに進展した。イベントに参加した「捜査員」たちにこのイベントは大好評だった。参加者たちは、みんなリアルな捜査の現場に身を置き、自分の頭と体をフル回転させ枯れ葉が舞う晩秋の秋田市外全域を駆け回って事件解決に取り組んだ感覚に興奮していた。トトカルチョマッチョマンズが初めて世に問うた参加行動型ロールプレイングゲーム「大捜査線」は成功裏に終了した。

長谷川敦や斎藤美奈子、安田琢、加藤のり子、鈴木美咲など、このイベントを企画し成功させた実行委員会メンバーは、会場の後片付けを始めた。彼らはここ2、3日ほとんど睡眠を取っておらず体はめちゃめちゃ疲れ切っていた。しかし、彼らはさっきまで捜査員たちが並んでいたイスと机を片付けながら、仲間との一体感を噛みしめていた。その一体感は、一緒に一つの事に取り組み、いくつもの困難を乗り越えたことによって生まれたものだった。そして、誰もが生まれてから今まで経験したことのない大きな達成感に満たされていた。