特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

第1章「邂逅」 2.卒業旅行

日本を発ち、生まれて初めての海外、アメリカ西海岸の土を踏んだ長谷川と友人は、まずロサンゼルスに滞在し、ハリウッドやサンタモニカなどの観光地を巡った。その地で1週間過ごした後、空路を経てマッカラン空港からラスベガスに入った。昼頃のことだった。空港からホテルまでは、旅行代理店が手配した日本人ガイドがタクシーで案内してくれた。そのガイドが長谷川たちに言った。

「ここは大人が子供になれる場所、大人のディズニーランドです。楽しんでいってください。」

ガイドの言葉を聞いても長谷川にはぴんと来なかった。何を言っているんだろう。確かに、空港内にスロットマシンが並んでいたし、飛行機を降りた時からこの街はよそとは違う雰囲気を漂わせていたが、そんな楽しい所なのだろうか。

しかしタクシーがラスベガスの中心部に近づくにつれて、長谷川はガイドが言った意味の一端を理解し始めた。明るく青い空の下、遠くの岩山まで続く赤茶けた乾燥した大地の上に、次第に都市の姿が現れてくる。車窓からの風景の中に、長谷川は黒く光る三角形の建造物を見つけた。

ピラミッドだ!

それはサハラ砂漠ならぬネバダ砂漠に建つ現代のピラミッド、ホテル「ルクソール」だった。その建物一つ見ても、ここが無機質な箱形のビルが並ぶロサンゼルスとは全く違う場所であることが明らかだった。

ラスベガス大通り・ストリップに入ると、目の前にはさらにきらびやかな世界が展開した。タクシーが走っている車道は片側6車線の幅を持ち、中央分離帯や道の両側にはヤシの木が植えられていた。ストリップの左右には見通せる限りずっと向こうまで、ユニークな色、形をした巨大なビル群が続いている。世界中から観光客を集めるラスベガスの中心施設・カジノホテルだ。各ビルの前にはどでかい広告塔があり、派手なビジュアルでナイトショーやカジノ、レストランに客を誘い、華やかな雰囲気を盛り上げていた。大通り周辺には、様々な年齢、人種の観光客があふれている。

初めて訪れる長谷川にも、一目でここが都市の心臓部であることが見て取れた。

 

程なくタクシーは、長谷川たちが宿泊するホテル「インペリアル・パレス」に到着した。インペリアル・パレスはストリップの中心交差点、フォーコーナーの近くに位置している。建物の正面には五重の塔を模したデザインが施され、他のホテルとは異なる東洋風の味付けをされていた。

ホテルでチェックインを済ませた長谷川と友人は、自分たちの客室に入った。もともと貧乏旅行なので決して高い部屋ではないが、昨日までいたロサンゼルスのホテルに比べると宿泊料金が安いのにかかわらず広くて快適そうに思えた。長谷川たちはその部屋に荷物を下ろすと、ホテル内のレストランで軽い食事を取った後、ストリップに出てぶらぶら歩き始めた。