特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

第1章「邂逅」 4.ホテル

長谷川たちは、エスカレーターの付いたフォーコーナーの歩道橋を渡って、さらにストリップを南に向かった。歩道橋を降りた一角では大規模な工事が行われていた。重機が動き回り、巨大なビルを建設中だった。見渡すとストリップのそこかしこで他にも建設工事が進められており、幾つかの新しいホテルが作られていると推測できた。この都市は、絶えず人々を呼び込むための新しい仕掛けを作り、常に変身し続けている。

カジノホテルはどれも広大なスペースを持ち、隣のホテルにたどり着くだけでも5~6分かかる。だが、目の前に次から次へと現れる光景に興味津々な長谷川たちには、徒歩での移動も苦にならなかった。やがてストリップの向かって左側に、他のホテルを遙かに上回る大きさの、エメラルドみたいに緑色に輝くホテルが姿を見せた。4方向に翼のように客室棟を伸ばしている。交差点に面したホテルの入り口には、黄金のライオン像があった。ライオンは口を大きく開け、その口から観光客がホテルに出入りしている。世界最大級のホテル・MGMグランドだ。MGMグランドは客室数をはじめ、カジノスペースの面積、従業員数などでラスベガス・ナンバーワンのランクを誇る。ホテル内にはカジノはもちろん、アトラクション、レストラン、ショッピングなど、観光客をもてなすあらゆる施設が揃い、あたかも一つの街といえるほどの規模だった。

MGMグランドから交差点を挟んで筋向かいの位置には、メルヘンチックなテイストのお城のようなホテルがあった。屏風を直角に開いたような客室棟が二つ向かい合い、その間の位置には真っ白な中世風のお城が築かれ、色とりどりの円錐形の屋根が付いた塔を頂いている。アーサー王伝説をテーマにしたホテル「エクスカリバー」だった。

エクスカリバーのさらに南隣りには、空港から乗ったタクシーで見た真っ黒なピラミッド、ホテル「ルクソール」が威容を見せていた。改めてすぐ近くで見ると、そのボリュームに圧倒された。ピラミッドの前には白いスフィンクスが鎮座している。古代エジプトのファラオを象ったスフィンクスの顔は、髪飾りの部分などに鮮やかな彩色がほどこされ、はっきりした輪郭の目を見開いていた。

ピラミッド型の外観だけでも長谷川の度肝を抜くには十分だったが、建物の内部にはさらに想像を絶する光景があった。この構造物の頂点まですべて吹き抜けとなったピラミッド型の大空間があるのだ。客室などの施設は斜めになったピラミッドの外壁に貼り付くように設けられている。ピラミッド型の内部空間の底面はほぼ正方形のカジノフロアとなっていた。

 

ここルクソールがストリップの南端だった。長谷川たちがいろいろなホテルの色や造形を楽しみながらルクソールまで歩いてくるうちに、気づかされたことがある。ホテル内の広告やストリップ沿いの大型広告塔で、たくさんの「ショー」を宣伝している。この都市では非常に多くの、しかも多様な種類のナイトショーが催されているのだ。

大がかりな仕掛けで見る者の意表を突くマジックショー、ブロードウェイでもロングランをしている人気ミュージカル、世界的に有名な歌手のコンサート、ラスベガスの伝統を感じさせるセクシーな踊り子たちによるトップレス・レビュー、演技者の身体能力を限界まで発揮するパフォーマンス、コメディアンによるトークショー…。それだけではない。ここラスベガスのホテルを舞台にして、ボクシングの世界タイトルマッチなど数々のスポーツイベントも行われている。

長谷川と友人は、チケットを予約していなかったこともありショーを見ることはなかったが、それらの「ショー」はカジノと並んで観光客をもてなすエンターテインメントとして重要な役割を持っているようだった。