長谷川たちは様々なホテルの外観を見て歩くだけでなく、各ホテルの中にも入ってみた。どのホテルでも、エントランスを入ってまずあるのがカジノエリアだ。フロントでチェックインするにも、宿泊している部屋に行くにも、またホテル外に出るにもカジノエリアを通らなければ行けないような仕組みになっている。客をカジノエリアに誘導し、そこで時間と金を使わせることがホテルの戦略なのだ。
「マフィアとギャンブルの街」…それが、ここを実際に訪れるまで長谷川がラスベガスに抱いていたイメージだった。ホテルのカジノこそ、そのイメージを体現する空間であり、ラスベガスの象徴だ。そこは実際にはどういう所なのだろうか。長谷川と友人はカジノエリアに足を踏み入れた。
カジノ内の通路はカーブしており、カジノエリアの全体が見通せないような造りになっていた。広い面積をとってスロットマシンが並ぶ区域があり、その先にはポーカーなどのカードゲームやルーレットのテーブルが並ぶエリアがある。そこは、光と音が渦巻く空間だった。
最初に長谷川の目を捉えたのは居並ぶスロットマシンの明滅する光だった。客がボタンを押す度に、マシンのカラーディスプレイで絵柄が回転する。そして回転が止まった時に絵柄が揃うと、ディスプレイはひときわ明るく輝いて「当たり」をアピールした。勝った客の興奮までもが伝わってくるようだ。ルーレットやカードゲームのテーブルにはスポット照明が当たり、そこで客とディーラーとの勝負が進行していた。全体の照明は明るさが抑えられており、スロットマシンの光や各コーナーの部分照明によってフロア内に明暗を造り出している。
そして、音。スロットマシンは光とともに音も辺りにまき散らしている。絵柄が回転する時はまだおとなしい音だが、当たりが出た時はコインが流れ落ちる音など一層派手な音を立てた。ルーレットやクラップスのテーブルでは、一つの勝負が着く度に勝った客だけでなく周りの者も歓声を上げている。カードゲームのテーブルでは大体において静寂の中でゲームが行われているが、時に大きな勝負の結果が出たのだろうか、興奮した客の声が響く場面があった。
せっかくラスベガスまで来たのに、カジノを見るだけで帰るのも何かもったいない気持ちになり、長谷川たちはささやかな賭けに出ることにした。といっても、英語が得意でないこともありカードゲームやルーレットのテーブルに座ってディーラーと勝負をすることはためらわれた。二人は、マシンが置かれた区域に向かった。居並ぶゲームマシンはスロットマシンだけではなく、いろんな種類のゲームを楽しめるようになっている。カードゲームのポーカーをマシン上で遊べるようにしたものもある。長谷川は定番のスロットマシンを始め、ビデオポーカー、ビンゴ、キノなどのマシンに手を出してみた。賭けている金額が少ないので当たっても大した金額にはならないが、それでもスロットマシンの回転する絵柄が揃ってディスプレイがぴかぴか光った時はドキドキした。
カジノエリアには飲み物を運ぶセクシーな衣装のウエイトレスもいる。他の客が飲み物を頼む様子を見ていると、それらの飲み物は無料で振る舞われているようだ。長谷川もウエイトレスを呼び止めアルコール飲料を頼むと、いっぱしのギャンブラーになったような気分がした。