特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

画一的でないカジノ運営を 二兎追う愚策避け地域特性生かせ

 

画一的でないカジノ運営を 二兎追う愚策避け地域特性生かせ

産経BIZ 2014.9.9 10:30

【視点】産経新聞編集委員・芳賀由明

 カジノ解禁前夜のような熱気が日本各地で噴出し始めた。刑法で禁止されている賭博行為を特定施設で合法化して、外国人観光客の増加と地域活性化に結びつけようというのが狙いで、地元経済の地盤沈下に悩む自治体は、文字通り、地域再生の行方をカジノを核とした統合型リゾート施設(IR)に賭ける意気込みだ。

 しかし、ギャンブル依存症やマネーロンダリング(資金洗浄)といった負の部分を懸念する声が根強いなか、各地のIRに満遍なく一石二鳥の効果を期待するのは楽観的過ぎるかもしれない。

 カジノ解禁の旗振り役は「IRは日本の成長戦略の目玉になる」と強調する安倍晋三首相だ。先の通常国会では継続審議となったが、9月下旬にも開かれる臨時国会では「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(カジノ推進法案)」が成立する可能性が高い。同法案成立を号砲に、2020年の東京五輪に向けてカジノ開設が具体化することになる。

 法案も候補地も決まる前から、自治体や事業者の動きが活発化している。有力候補地の一つである大阪府には、米MGMリゾーツ・インターナショナルや米シーザーズ・エンターテインメント、米ラッシュ・ストリート・ゲーミング、香港系のメルコ・クラウン・エンターテインメントなど大手IR運営会社首脳が引きも切らず、松井一郎知事への売り込みに余念がない。

 松井知事は「ポテンシャルは大阪が一番」とアピールするが、候補地とする夢洲(ゆめしま)の活用策を具体化するのが府や市の喫緊の課題。大阪市が2000年、08年と夏季五輪の開催地に立候補し、夢洲開発に着手したが招致に失敗後、開発計画は立ち消えになった。

その後も海上都市建設や企業・大学の誘致を目指したが、人口減少や景気の悪化で頓挫。総投資額は2700億円以上といわれる。大阪経済浮上の活性剤としても期待でき、IR誘致は大阪府にとっては死活問題といっても大げさではないようだ。

 釧路や小樽、苫小牧などが名乗りを上げた北海道や、官民を挙げて観光のてこ入れを目指す沖縄県など地域再生に頭を悩ませる自治体にとってIRは「のどから手」ではある。しかし、カジノや観光資源の魅力で外国人観光客を増やすことと、巨大なハコモノとそのショバ代(税金)で地域再生を目指すことは一石二鳥のようで、二兎を追って一兎も得ずの結果になりかねない。

 政府がIR運営の手本にしたいといわれるシンガポールは、小さな都市国家でカジノと観光は同一地域。10年にカジノを開設し、13年の観光客が1560万人(09年比6割増)に急増したことが、その地理的優位性を物語っている。

 日本では20年までに2、3カ所のIRが認可される方向で検討されているが、近隣の観光資源の違いや交通の便などIRは地域の特性によって異なる性格を目指すべきだろう。すべてのIRに画一的に「成長戦略の目玉」を求めるのは政策破綻を招きかねない。

 米ラスベガスに本拠を置くMGMリゾーツのジェームス・ムーレン最高経営責任者(CEO)は「日本独自のIR、いわば『ジャパン・リゾート』を作るべきだ」と話し、そのために複数の日本企業とコンソーシアムを設立する構想を抱く。

 地方の財政事情によって、課税率にも差が生じるのが普通だ。各国のカジノをみると課税率、課税対象ともまちまち。カジノ課税は5~40%と幅広いが、法人税や物品課税などの違いもあり一概に比較しにくいのが実態だ。ただ、米イリノイ州のように、州の財政状況の変化に応じて課税率を上下するような制度は、事業者の投資リスクを増大させかねない。

SMBC日興証券は、IR建設による14~20年までの経済効果は約4兆6000億円と試算する。ギャンブルの負の対策や海外旅行者の利便性を考えたインフラ整備など解決すべき課題は山積だが、経済効果の裾野も広大だ。政府と自治体が地域特性を十分考え、競争力に配慮した揺るぎないIR政策を明示することこそが内外企業の大型投資を呼び込み、観光客を引き寄せ、真の「成長戦略の目玉」となりうる。

ソース:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/140909/mca1409090500001-n1.htm