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なぜ米カジノ大手はアジア進出に熱心なのか

東洋経済オンラインで「IRで始まるツーリズム革命 カジノが日本にやってくる!」というタイトルで、連載の特集を組んでいます。今回は第5回目。

 

なぜ米カジノ大手はアジア進出に熱心なのか

過当競争に陥るアメリカのカジノ

小池 隆由:キャピタル&イノベーション代表取締役
[東洋経済オンライン 2014年07月30日]

米国のカジノはラスベガスだけではない(写真:アフロ)

基本的なことですが、アメリカ合衆国(以下、米国)は50州(および、コロンビア特別区)で構成される連邦共和制国家です。米国の各州は独自の憲法と州法を整備し、ほとんど独立国に近い強い自治権を持っており、米国全体に効力を持つ連邦法は、外交、州間の通商などに関連する事項に限定されています。

米国の連邦政府と州の関係は、日本の中央政府と都道府県の関係とは大きく異なります。また、米国では連邦政府の認定を受けたネイティブ・アメリカン(先住民)の部族政府が自治権を有し、独自の規則、司法制度を持っています。

930ものカジノが稼働

米国のカジノ市場は全体として明らかな供給過多、過当競争に陥っています。米国では合計930のカジノが稼働しています。このうち、コマーシャルカジノ(民間商業施設。部族民運営ではない)は17の州で合法化されており、合計464の施設が稼働しています。コマーシャルカジノには、陸上(ランドベース)と、主にミシシッピー川流域にあるリバーボート(船上カジノ)があります。一方、トライバルカジノ(米国先住部族民の所有)は28の州、合計466の施設が稼働しています。

カジノ施設は日帰り圏内(1~2時間の移動範囲)に住む人々の金融資産をターゲットとします。それぞれの州政府、部族民政府からすれば、自らの対象エリアに住む人々が、近接する外部の州、部族民政府のカジノ施設を訪問し、お金を落とす状況を看過できません。この結果、州政府、部族民政府が設備増強合戦を繰り広げたわけです。

これは、マカオ(本連載の第3回)、シンガポール(第4回)とは対照的です。アジアの主要市場では、中央政府がカジノ施設の総量を適正にコントロールしています。日本も中央政府がカジノ施設数を厳格にコントロールする方向です。日本は島国であり(国際競争の影響を受けにくい)、自国民の市場が大きいため、総量コントロールが有効に機能する見通しです。

カジノ事業者の収益力は急低下

カジノの施設当たりの収益性は、対象エリアにおける居住者の金融資産量と施設数で決定します。金融資産量はカジノの潜在市場規模を示し、それを施設数で割れば一施設あたりの収益力を測れます。

各国の「個人金融資産量/カジノ施設数」、すなわち「カジノ一施設当たり平均の個人金融資産量」(純金融資産100万ドル以上を有する富裕層を対象)をみると、米国は「1180兆円/930施設=約1兆円強」です。一方、マカオは「400兆円/35施設=約11兆円」、シンガポールでは「100兆円/2施設=約50兆円」です。米国は個人金融資産量こそ大きいものの、過当競争の結果、施設数が多すぎて、一施設当たりの市場規模が希薄化しているのです。

米国では2000年以降、カジノ施設が急増し、過当競争が顕著となりました。「EBITDA(利子、税金、償却費を控除する前の利益。事業のキャッシュフローの指標)/施設構築投資額」をみると、2000年前に開業した施設群は、ラスベガスでは約15%、リージョナル(地域)では約30%、と高水準でしたが、2000年以降に開業した施設群は、ラスベガスでは約2%、リージョナルでは約12%まで低下しました。

グローバル事業者のうち、株式を上場するLVS、MGM、WYNNの時価総額は、それぞれ5兆9000億円、2兆円、1兆3000億円(7月18日現在)であり、営業利益は3400億円、1300億円、1100億円(2013年実績)です。この3社の時価総額、営業利益の規模は、他の米国のカジノ事業者を圧倒しています。グローバル事業者の中でもCaesars Entertainmentは経営危機に陥り、現在はプライベートエクイティファンドの傘下となった経緯があり、この3社とは対照的な経営状況をたどりました。

この3社が突出している理由はシンプルです。3社ともマカオ、シンガポールに事業を持つことです。LVSはマカオ、シンガポールの両方に事業(子会社)を持っています。MGM、WYNNはマカオに事業(子会社)を持っています。

3社とも企業価値、営業利益の大半をマカオ、シンガポールに依存しています。米国事業の企業価値、利益の構成比はごく僅かです。例えば、LVSのグループEBITDAのうち、マカオ、シンガポールの構成比はそれぞれ60%、30%ほどです。つまり、LVSの利益のうち、アジア(マカオ、シンガポール)が90%以上を占め、米国を含むアジア以外は数%に過ぎないわけです。

ノンゲーミング施設で稼ぐ必要性

IR、カジノの経済分析は次回以降で詳細に紹介しますが、今回は、米国とアジアの売上構成の違いのみ簡単に説明します。

マカオ、シンガポールのIRの売上構成比をみると、カジノゲーミングが8~9割、ノンゲーミング(ホテル、飲食、エンターテインメント、MICEなど)は1~2割です。一方、米国のラスベガスストリップのIRではカジノゲーミングが4割ほど、ノンゲーミングが6割です。

差異の原因は、カジノゲーミングの収益力です。アジアでは政府がカジノ施設の総量をコントロールしますので、カジノの収益力が高く維持されています。ゆえに、カジノ以外のノンゲーミング施設は収益よりも集客に専念し(良いサービスを低価格で提供)、カジノゲーミングが集中的に収益を稼ぎます。一方、米国ではカジノゲーミングが過当競争であり、収益力が低いため、ノンゲーミング施設も収益を稼ぐことを求められるわけです。

米国のカジノ、IRのノンゲーミング部門の売上構成の高さの主な理由は、カジノの競争激化、収益力の低さの結果の裏返しです。ノンゲーミング事業に特別に優れた秘密があるわけではありません。実際、米国グローバル事業者のマカオ、シンガポール子会社の売上構成比はアジア発の事業者と同じです。

日本は世界の事業者の序列を塗り替える市場

本連載で説明してきたように、日本市場は莫大な金融資産を有し、国際競争から切り離されており、中央政府が施設量をコントロールします。事業者は永続的に大きな利益が保証されています。関東、関西それぞれ一施設ずつ構築した場合、2施設計の営業利益は保守的に見積もっても年間3000億円レベルと世界最大級が予想されます。

日本は世界の事業者の序列を塗り替える市場です。こうしたことを背景に、米国グローバル事業者のみならず、世界の事業者が日本における売り込みを積極化しているわけです。逆に言えば、日本資本の事業者(コンソーシアム)がしっかりと日本のIR、カジノを主導すれば、その時点で、その事業者は一気に世界トップクラスの仲間入りを果たすことになります。

ソース:http://toyokeizai.net/articles/-/43852

一方、アジアでは、施設量コントロールの結果、マカオのコンセッション保有6社計の営業利益は約6000億円、シンガポール2施設計(2社計)の営業利益は約2000億円(2013年実績推定)と、カジノ産業は継続的に巨大な利益を創出しています。

米国グローバル事業者はアジアに依存

米国のコマーシャルカジノ事業者(部族民カジノを除く)は、グローバル事業者、リージョナル事業者に大別できます。グローバル事業者は米国を拠点に、世界に事業展開する事業者であり、主にLas Vegas Sands(LVS)、MGM Resorts International(MGM)、Wynn Resorts(WYNN)、Caesars Entertainment(CZR)などがあります。リージョナル事業者は米国内の地域展開を主体とする事業者であり、大から小まで多数存在しますが、大手にはAmeristar Casinos、Boyd Gaming、Penn National Gaming、Pinnacle Entertainmentなどがあります。