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アジアのカジノ市場、その突出した成長力

東洋経済オンラインで「IRで始まるツーリズム革命 カジノが日本にやってくる!」というタイトルで、連載の特集を組んでいます。今回は第7回目。

 

アジアのカジノ市場、その突出した成長力

フィリピンでIRの建設ラッシュが始まった

小池 隆由:キャピタル&イノベーション代表取締役
[東洋経済オンライン 2014年08月13日]

2013年に開業したフィリピンのSolaire Casino。マニラ湾ではカジノリゾート開発が進行中(写真:AP/アフロ)

カジノ産業でもアジアは世界の成長センター

アジア、北米、欧州の経済規模はおおむね拮抗しています。GDPを比較すると、アジアが約20兆ドル(現時点でカジノが合法化していない日本を除くと約15兆ドル)、北米が約19兆ドル、欧州(EU28カ国)が約17兆ドルです。一方、カジノ市場はアジアが6.2兆円、北米が7.2兆円、欧州が7500億円です。

アジア、北米はかつて禁止していたカジノを解禁し、ゼロから制度設計し、戦略的に産業として育成しました。重要なポイントは、カジノの収益力を施設の集客力にフィードバックする仕組みを取り入れたことです。行政側が施設の設置場所と量を適正にコントロールしつつ、カジノ売上税を低く設定し、事業者に再投資余力を与えました。そして、マカオ、ラスベガスに代表されるようにクラスター効果(集積効果)、シンガポールのIRに代表されるような複合施設効果を創出したわけです。

アジアのカジノ市場の成長力は突出しています。2015年にはアジアが北米を超過する可能性は十分にあります。アジアのカジノ市場成長の原動力は、高い経済成長と個人金融資産量の増加に加え、カジノ施設の供給が依然として需要を下回るエリアが多く(アンダーサプライ)、施設量の計画的な拡大が市場を牽引するためです。

一方、米国のカジノ市場は、本連載の第5回(過当競争に陥るアメリカのカジノ。なぜ米カジノ大手はアジア進出に熱心なのか)で説明したように、州、部族民政府間の競争の結果、カジノ施設数が930まで増加し、過当競争に陥り、市場成長余地は限定的です。一方、欧州のカジノ市場は第6回(地方都市が目指すIRは、欧州から学べる。カジノ発祥の欧州、市場縮小が進むワケ)のように、相対的に小規模なうえ、縮小傾向にあります。

アジア各国のカジノ市場規模(2013年)は、トップのマカオ(中国)が4.5兆円、2位のシンガポールが6000億円、3位のオーストラリアが3500億円、4位の韓国が2700億円、5位のフィリピンが2000億円、6位のマレーシアが1800億円です。

現時点の市場規模ではシンガポールに続く国は、オーストラリア、韓国ですが、それぞれ相対的にカジノ産業の歴史は長く、安定した市場です。オーストラリアでは1990年代中盤に代表する施設群(メルボルンのCrown Casino and Entertainment Complex、シドニーのThe Star Sydney Casino & Hotel)が開業しました。韓国を代表する施設群の開業時期は、Paradise Walker-Hill Casinoが1968年と古く、Kangwon Landが2000年、ソウルのSeven Luck Casinoが2005年です。

現在、マカオを除けば、IRの開発が最も活発化している国はフィリピンです。フィリピンでは2011年に第1号のIRとしてResorts World Manilaが開業しました。その後、マニラ湾カジノリゾート・プロジェクトが進展中です。同プロジェクトは約85ヘクタールの埋め立て地に4つのIRを集積させるプロジェクトであり、4つのIR合計の投資額は5000億円レベルです。2013年3月にSolaire Manilaが開業し、2014年にはCity of Dreams Manila、2015年にはManila Bay Resorts、2016年にはResorts World Bayshoreが開業予定です。Resorts World Manila、Solaire Manilaとも業績は順調であり、今後、開業予定の施設群も収支見通しは強気です。

ウラジオストックでもIRを建設

フィリピン以外では、ベトナム、韓国、スリランカ、ロシアのウラジオストック、カンボジアのシアヌークビルなどにIR開発計画があります。また、台湾もIR実現の動きを継続しています。ベトナムのThe Grand Ho Tram Stripは総予算42億ドル、総開発期間8~10年の大規模プロジェクトであり、2013年7月に第1フェーズが開業しました。韓国ではCaesars Entertainment、Genting Singaporeがそれぞれ不動産開発業者と合弁で、総額20億ドル強のIR開発を進める予定です。

ウラジオストックではMelco International Development(Melco Crown Entertainmentの大株主)、カンボジアのNaga Corpが開発を進める方向です。しかし、フィリピンを除く、これら国々のプロジェクトは総じて事業採算性は楽観視できません。ベトナム、韓国のカジノ施設は外国人専用です(内国人は入場できない)。カンボジア、ウラジオストックの地元民のカジノ市場規模は限定的です。それぞれの施設は外国人訪問者に収益を依存せざるをえないプロジェクトであり、当初より、厳しい国際競争に直面することになります。

カジノの市場規模を決定する要素は、①エリアの個人金融資産量、②集客力(アクセスのよさ、アトラクションの強さ)、です。これに、③事業者数、を考慮すれば、事業者当たりの収益性を把握できます。単純化すれば、カジノ事業者の利益は「個人金融資産量/カジノ施設数」、すなわち「カジノ1施設当たり平均の個人金融資産量」で推定できます。個人金融資産の量に対して、中央政府が施設数を適正にコントロールすれば、カジノ事業者は十分な利益を確保できることになります。

アジア各国の有力カジノ事業者は一様に高収益を享受しています。マカオ、シンガポールを除く国のトップ事業者の営業利益(2013年)をみると、韓国のKangwon Landは388億円、フィリピンのTravellers International Hotel Groupは109億円、カンボジアのNagaCorpは147億円、マレーシアのGenting Malaysiaは586億円、オーストラリアのCrownは547億円、ニュージーランドのSky City Entertainmentは190億円であり、売上高利益率も高水準です。

前記のフィリピンのIR開発会社のうち、Travellers International Hotel Group(Resorts World Manila、Resorts World Bayshoreを所有)に加え、Bloomberry Resorts Corporation(Solaire Manilaを所有)、Melco Crown Philippines Resorts(City of Dreams Manilaを所有)も株式を上場しています。現時点ではそれぞれ開業直後、あるいは前であり、業績数値は不安定ですが、2015年の営業利益は3社とも200億~250億円レベルが予想されています。

マカオ、シンガポールの営業利益(2013年実績)は、マカオのコンセッション保有6社計が約7500億円、シンガポールの2施設の運営会社計(Marina Bay Sands、Resorts World Sentosa)が約2000億円です。

欧米のカジノ事業者(上場企業)のうち、営業利益(2013年)が300億円を超過したのはLas Vegas Sands、Wynn Resorts、MGM Resorts Internationalの3社のみです。この3社の営業利益の約9割はマカオ、シンガポールの子会社に起因しています。

米国のカジノ業界が過当競争に陥り、欧州のカジノ市場と事業者が小粒である状況下、アジアのカジノ事業者の利益は世界を圧倒しているわけです。

日本は、世界の序列を塗り替える潜在力

日本は単一大型経済圏で、島国であるために国際競争の影響を受けにくく、中央政府が施設数をコントロールします。事業者はほぼ確実かつ永続的に莫大な利益を確保できる見通しです。関東、関西それぞれ一施設ずつ構築した場合、2施設計の営業利益は保守的に見積もっても年間3000億円レベルと世界最大級が予想されます。

世界のカジノ新市場においても日本は別格です。世界の事業者の序列を塗り替えるポテンシャルがあります。それゆえに、米国勢、アジア勢などがこぞって日本に売り込みをかけているわけです。逆に言えば、日本資本の事業者(コンソーシアム)がしっかりと日本のIR、カジノを主導すれば、その時点で、その事業者は一気に世界トップクラスの仲間入りを果たすことになります。

ソース:http://toyokeizai.net/articles/-/45026