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カジノ法案審議入り、重要論点を総点検 公営or民営、誘致活動、参入と入場の規制

 

カジノ法案審議入り、重要論点を総点検 公営or民営、誘致活動、参入と入場の規制

[Business Journal 2014.08.20]

 カジノ合法化を含む「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(IR推進法案)が、ついに先の第186回通常国会で審議入りした。さらに、閉会後の7月には、IR(統合型リゾート)の整備に向け、政府は内閣官房に関係省庁の官僚で構成される検討チームを発足させた。内閣府、財務省、経済産業省、総務省、法務省、国土交通省、厚生労働省、金融庁、警察庁から10人のスタッフが内閣官房副長官補付として集められ、審議官1人、参事官2人の役職者も含まれるという。法案成立前であるにもかかわらず、実務者としては重量級といえる布陣であり、安倍政権のIR実現に向けた並々ならぬ意気込みが感じられる。

 IR推進法案は秋の臨時国会でも審議され、成立する可能性がより高まりつつあるのは間違いない。他方で、日本弁護士連合会が廃案を求める意見書を発表したほか、全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会などの組織による反対運動も活発化している。同法案をめぐっては、秋の臨時国会で波乱含みの緊迫した展開となることもあり得る。

 国民が、カジノを含むIR実現のメリットとデメリットを正確に判断するためには、できるだけ多くの情報に基づいた熟議が必要であるが、国会における審議の具体的中身はほとんど報道されていない。重要な論点を含むものであるので、以下に紹介したい(紹介する議員の答弁などは、特に断りない限り、6月18日に行われた第186回国会衆議院内閣委員会でのものである)。

●「カジノ」の定義~パチンコやパチスロも含むか?

 意外に思われるかもしれないが、IR推進法案において、賭博行為たる「カジノ」とは何を指すのかは、定義されていない。さらに言えば、「カジノ施設」についても、「別に法律で定めるところによりカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る」と規定されているだけであり、具体的にいかなる施設を指すのかの定義はされていない。

 この点について、法案の提案者である柿沢未途議員(結いの党)は、「ルーレット、さいころ、トランプ、スロットマシンその他の器具等を用いて金銭を賭する、かけるゲーミングを行うこと。また、その場所をカジノという場合もあります」と答弁している。

 そうすると、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営法)によって「賭博」ではなく「遊技」として規定されているパチンコやパチスロが「カジノ施設」に設置された場合、どうなるのかという疑問が生ずる。

 大熊利昭議員(みんなの党)による「カジノ施設の中でパチンコ台を置くケースと町中のパチンコ店のケースはどう考えればいいのか。今回の基本法、プログラム法および今後の個別法で、パチンコも規制対象にできるのか」との質問に対し柿沢議員は、風営法においてパチンコは、店舗単位で規制されているのに対し、カジノを含むIRは、面的な広がりがあるという点でまず違いがあると述べた上で、「IR推進の一環としてのカジノの導入と遊技としてのパチンコあるいはパチンコ店は、まったく別のものであり、仮にパチンコ台がIRの中に設置をされても、この法律においてパチンコ店の営業が規制の対象となるわけではない」と答弁している。

 法的な結論を正確に述べれば、IR法において、カジノを「器具等を用いて金銭を賭するゲーミングを行うこと」と広く定義すれば、「カジノ施設」においてパチンコやパチスロを置くこともできる。また、「遊技」ではなく「賭博」として許容する以上、現行の風営法上では認められない程度の高い射幸性も許容されることとなる。他方で、風営法によって規律されるパチンコ店に対する規制がIR法によって直接的な影響を受けることはない。

●民営カジノか公営カジノか

 これも意外に思われるかもしれないが、IR推進法案においては、カジノが民営なのか公営なのかについて、直接的には規定されていない。つまり、同法案においては、カジノ施設の「設置」および「運営」を民間事業者が行うと規定されているものの、賭博たるカジノの「施行」を、私企業などの民間が行う(民営カジノ)のか、自治体などの公が行う(公営カジノ)のかについて、直接的・明示的な規定はない。

 ただし、競馬などの公営賭博を認める既存の法律とは法構造が大きく異なることや、あえてカジノ管理委員会を内閣府の外局に設け、カジノ施設関係者に対する強い規制を行うと規定していることなどから、法案全体を通してみれば、民間がカジノの施行を行うことを前提としている(いわゆる公施行民委託方式のカジノを排除している)と解釈する余地がある。さらに、提案者たる国会議員も、カジノの施行者は公的な主体ではなく民間事業者であると答弁している。

 すなわち、岩屋毅議員(自民党)は、「カジノというゲーミングは、施行者がプレーヤーとリスクをとって向き合うだけに、公的な主体が施行者になることはふさわしくないため、民間事業者を厳格に審査してライセンスを与えるという仕組みを考えた」と答弁し、同じく提案者である柿沢議員も同旨の答弁をしている。よって、IR推進法が成立した場合には、それを受けて立案されるIR実施法も、施行権が民間にある民営カジノを前提として策定されるべきことになる。

 もっとも、大熊議員は「民間事業者と公的機関が競争すると、運営の効率性からして、多分、民間事業者が勝つのだろうという気もしますが、競争させてもいいのではないか」と述べており、民営カジノと公営カジノの併存があり得ると考えているようでもある。いずれにしても、民営か公営かは、カジノ合法化の建て付けの根幹である。よって、誤解や混乱を招かないよう、IR推進法の審議の段階で明確に決着を付けておくべきである。

 なお、刑法の賭博罪規定の特別法を制定して民営カジノを合法化することについて、法的な支障は存在しない(国会による広範な立法裁量の範囲内である)。このことは、「私人が行う賭博行為を処罰の対象とすべきかどうかは立法政策の問題であり憲法適否の問題ではない」と判示した昭和54年2月1日の最高裁決定などですでに決着済みである。カジノを合法化するとした場合に民営とするか公営とするかは、基本的には政策的判断による問題である。

●カジノへの入場制限~外国人だけに限定するか?

 岩屋議員は、国の内外から多くの観光客を集め、国際競争力のある観光地を形成するという法目的を実現する観点から、入場者を外国人に限定せず、日本人も対象にすべきであると答弁している。もっとも、岩屋議員、萩生田光一議員(自民党)および石関貴史議員(日本維新の会)は、社会問題等のデメリットを最小化するために、厳格なIDチェックをした上で、未成年者の入場を禁止するほか、依存症を防止すべく、自国民に対する自己排除プログラム・家族排除プログラム(本人や家族の同意を得て入場を規制する手法)や入場料の徴収の導入も検討すべきであると答弁している。

●特定複合観光施設の要件

 IR推進法案において、カジノは「特定複合観光施設」内においてのみ認められるとされている。そして、この「特定複合観光施設」とは、カジノ施設および会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる設備が一体となっている施設と規定されている。

 IRの誘致活動を行っている自治体でも、特に都会ではなく地方では、カジノ施設とそれ以外の施設(会議場施設、レクリエーション施設、既存の観光資源など)を文字通り1カ所に集めて建設することは困難なところが多い。そこで、このカジノ施設とそれ以外の施設の一体性要件が、どの程度厳格に解釈されるのかは、誘致合戦における死活問題として関心が強い。

 この点について岩屋議員は、「基本的にIRは、さまざまな施設が一定のエリアに一体として整備され、それによって相乗効果が生み出されることを期待しております。ただ、既存にいろいろなインフラが整っているというところもあると思いますが、その一体性についての判断については、構成する施設間の距離だけではなくて、アクセスのよさや運営の効率性などを総合的に勘案して判断されていく」と答弁している。

 この答弁に基づき、アクセスのよさや運営の効率性などを総合的に勘案して、エリアの一体性をある程度緩和して考えるならば、いわゆる地方型IRも実現可能で、さらには、複数の自治体にまたがる広域連携も十分に可能性があるということになろう。

 岩屋議員は、自治体がカジノ施設を設置できる区域として国から認定を受けるための申請につき、「地域住民の理解を得なくてはならないので、例えば、申請に当たって、議会の同意を要件とするというようなことも考えられる」と答弁している。

 筆者も、議会の同意を要件とすることに基本的には賛成である。ただ、IR推進法およびIR実施法が成立した後においても、誘致自治体の議会の同意を阻止すべく、カジノ反対派が全国から結集し、根強い反対運動が集中的かつ継続的に行われることが予想される。カジノについて、反対派が存在しなくなることは絶対にあり得ないし、また、反対活動が否定されるべきものでもない。誘致自治体には、粘り強い対話と説得が求められる。

●オンラインカジノは認められるか?

 IR推進法案においては、カジノ施設を設置できる「特定複合観光施設区域」の認定要件は規定されておらず、実施法で規定されることになっている。

 この点に関し大熊議員は、「ネット連動型のサービスを認めてしまった場合、設置区域では収まらないことになる」と疑問を投げ、それに対し柿沢議員は、「IRを設置する目的は、訪日促進、観光振興であり、また雇用創出効果が高いという点に着目をしている部分もあります。その点で顕著な効果があると考えるからこそ、IRの設置を進めている。ネット、オンラインカジノでは、観光客を日本に誘致するという目的が達せられない。また、仮に海外にサーバーを設置してしまえば、お金の動きも把握できず、税の徴収が難しくなりかねない」と述べ、オンラインカジノを設置することは想定していないとの考えを示した。

 オンラインカジノ(インターネットを通じてプレイするカジノ)は、規制の実効性などの点で特殊性があり、ランドカジノ(店舗を構えて運営するカジノ)とは同一に捉えられない側面が多い。従って、オンラインカジノ解禁の是非は、IR法によってランドカジノが合法化され、大きな社会的問題が発生しないことが確認された後の、将来的な検討課題であろう。その際は、オンラインカジノだけに限定した検討ではなく、ソーシャルゲーム、オンラインゲームおよび賞金付きゲーム大会なども含めた、広く統一的なゲーミング法制の構築が検討されることが望ましい。

●日本人成人男性の9.6%がギャンブル依存症

 赤嶺政賢議員(共産党)が厚生労働省に対し、日本におけるギャンブル依存症者の数および世界の主要国との比較を問いただしたところ、政府参考人の蒲原基道厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長は、2009年度に実施した厚生労働科学研究の成果によれば、日本のギャンブル依存の割合は、男性が9.6%、女性が1.6%と報告されたこと、またアメリカで1.4%、カナダで1.3%、イギリスで0.8%といった報告があることを答弁した。

 蒲原氏が引用した厚生労働科学研究とは、「わが国における飲酒の実態ならびに飲酒に関連する生活習慣病、公衆衛生上の諸問題とその対策に関する総合的研究」を指す。しかし、この男性9.6%という衝撃的な数値は、そもそも同研究報告書においても、暫定値としての扱いであるほか(ギャンブル依存者と健常者を区分けする妥当なカットオフ点について争いがある)、いくつかの疑問も投げかけられているところである。よって、一つの有益な参考資料にはすべきものの、この数字だけが一人歩きして当然の前提とされては、実態を見誤る可能性を否定できない。

 なお、大門実紀史議員(共産党)が、4月28日の参議院決算委員会において、パチンコ業者を規制する警察庁に対し、ギャンブル依存症の大半はパチンコが原因であるということを認識しているかと質問したところ、政府参考人宮城直樹警察庁長官官房審議官は、「ギャンブル依存症といわれるものの中にパチンコに対するのめり込みが存在することは了解しております。ただ、それが主要な要因かどうかについては、お答えできない」と答弁した。

 いずれにしても、日本に一定数のギャンブル依存症者が存在することは確実であり、憂慮すべき事態である。IR法制においても依存症対策が必須であることに疑いはなく、早急な実態調査が望まれる。

●カジノ運営業者の参入規制

 鈴木克昌議員(生活の党)は、「世界貿易機関(WTO)協定等におけるカジノに係るサービスの位置付けや、我が国の産業育成やノウハウ蓄積も重要であること等、さまざまな要請を勘案」すべきであると述べた上で、「IRの整備、運営に当たっては、地域事業者をはじめ、国内外の民間事業者の英知を結集して行われることが肝要」であると答弁し、外資参入を規制するかどうかについては微妙な言い回しとなっている。

 鈴木議員がいう「WTO協定等におけるカジノに係るサービスの位置付け」とは、「サービスの貿易に関する一般協定(GATS)」におけるカジノ(賭博サービス)の位置付けを意味する。そして、おそらくは、アンティグア・バーブーダというカリブの小国とアメリカとが、WTOの場で争った国際的な賭博紛争が念頭にあると思われる。この賭博紛争は、アメリカの賭博規制が外国からの賭博サービス提供を制限しており、GATS条項およびGATSに関するアメリカの自由化約束に違反しているとして、アンティグア・バーブーダが、WTOの紛争解決手続を要請した事案である。WTO小委員会および上級委員会はともに、アメリカの賭博規制はGATSに違反していると判断した。日本は、当時のアメリカと違って、GATSにおいて、賭博サービスについて自由化約束を行っていない。したがって、IR法において、外資規制を行ったとしても、直ちにGATS(市場アクセス条項、内国民待遇条項)違反となるわけではない。また、賭博事業を営む権利が、憲法上保障されているわけではないので、IR法において外資規制を行ったとしても、その内容が著しく不合理な差別でない限り、立法裁量として許容される余地はある。

 しかし、魅力あるIRを実現するためには、十分な経験とノウハウのある外資系企業の参入を規制してしまうのはやはり望ましくない。カジノ施設からの収益の大半が海外に流出するような事態は避けるべきであるが、これについては、事業者から徴収する納付金の額や使途の明確化および「特定複合観光施設区域」や民間事業者の認定・許可基準を、地域振興や財政改善といった法目的を実現するに足る緻密なものとすることなどによって対応すべきである。

 IR推進法案は審議入りしたばかりではあるが、各党の関心も高く、充実した審議がなされている。秋の臨時国会においても、国民による熟議に資する有益な審議がなされることを期待したい。
(文=山脇康嗣/弁護士)

●山脇康嗣(やまわき・こうじ)
1977年大阪府生まれ。慶應義塾大学大学院法務研究科専門職学位課程修了。東京入国管理局長承認入国在留審査関係申請取次行政書士を経て、弁護士登録。入管法のほか、カジノを含むIR法制に詳しい。現在、第二東京弁護士会国際委員会副委員長。主要著書として、『詳説 入管法の実務』(新日本法規、単著)、『入管法判例分析』(日本加除出版、単著)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規、編集代表)、『事例式民事渉外の実務』(新日本法規、共著)、『こんなときどうする外国人の入国・在留・雇用Q&A』(第一法規、共著)がある。

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ソース:http://biz-journal.jp/2014/08/post_5771.html