東洋経済オンラインで「IRで始まるツーリズム革命 カジノが日本にやってくる!」というタイトルで、連載の特集を組んでいます。今回は第4回目。
シンガポールのカジノは、なぜ成功したのか
2施設で年間営業利益が2000億円に
小池 隆由:キャピタル&イノベーション代表取締役[東洋経済オンライン 2014年07月23日]マリーナベイサンズの威容今では統合リゾート(IR)が最大の観光スポットになっているシンガポールですが、我が国と同様、カジノ解禁への歴史は長いものでした。1985年、2002年とカジノ開設の政治議論が盛り上がりましたが、それぞれ当時の有力者により却下された経緯があります。
2004年にはシンガポール通商産業省がカジノ開設を改めて提案し、2005年にカジノ合法化が閣議決定されました。方針変更の大きな理由は、アジアにおける都市間競争が激化する中、シンガポールの地位が相対的に低下する懸念が台頭したことです。とくに、中国経済の台頭、マカオにおけるカジノ観光産業の飛躍は大きな脅威と映りました。
そうした中、「建国の父」であり、依然として強い政治力を持つリー・クアンユー氏がカジノ反対の立場を撤回。2011年に2つの統合リゾート(IR)が開業しました。
政府はカジノに対し、慎重な姿勢を維持
ただし、シンガポール政府は合法化後もカジノに対して慎重な立場を崩していません。政府は、自国企業のカジノ事業への関与、自国民の過度なカジノ訪問を警戒しています。カジノの社会的な負の側面、すなわち依存症、勤労意欲減退、反社会勢力の関与などをリスク視しているからです。
2011年時点、2つのIRが開業し、その成功が注目された時点でも、地域開発青少年スポーツ省担当大臣 (Minister of Community Development, Youth and Sports、MCYS)は「我々はギャンブルを決してノーマルな存在、ファッショナブルな存在、名誉の称号にはしない。今後もこれまで同様、カジノを悪徳と位置付ける」と述べています。
世界最大級のIRが2施設
2つのIRのうち、「マリーナベイサンズ」は商業ビジネスの中心に近い港湾エリアに位置します。一方、「リゾートワールドセントーサ」はリゾート地区として開発が続けられてきたセントーサ島に位置します。セントーサ島も商業ビジネスの中心部から車で5分ほどであり、両者は近接しています。
マリーナベイサンズは米国のラスベガスサンズ社の100%子会社が所有、運営しています。一方、リゾートワールドセントーサはマレーシア資本のゲンティンシンガポール社が所有、運営しています。
2件とも全体の施設構成や規模感は類似しており、基本コンポーネントは、カジノフロア(15000㎡)、ホテル(2000室前後)、MICE(展示スペース、会議室)、ショッピング、飲食などです。2つのIRの大きな違いは、施設コンセプト、顧客ターゲットです。マリーナベイサンズはMICE施設(会議場、展示施設)、ショッピング、飲食に重点を置き、大人向け、都会的なイメージです。一方、リゾートワールドセントーサはリゾート島であり、ユニバーサルスタジオをフィーチャーしており、ファミリー向け、リゾートのイメージです。
2つ合わせて2000億円の営業利益
業績数値をみると、それぞれ売上高は3000億円前後、営業利益は1000億円前後。カジノ事業の収益性を決定する要素は、対象マーケットの個人金融資産量、施設数です。この事業の唯一の収支リスクは過当競争、つまり施設の供給過多です。
シンガポールの対象マーケットは、アセアン全域に広がっており、大きな経済圏です。一方、アセアン内のIR、カジノ施設の供給量は現時点では多くありません。この結果、高い収益性が確保できるわけです。
当面、両IRの業績は安定的に推移する見通しです。アセアンの経済と個人金融資産は高い成長が続く見通しなのに加え、シンガポール政府は両施設へのカジノライセンス発行後、10年の間(おおむね、2020年まで)は追加ライセンスを発行しないことを公約しているためです。
アセアン全体に目を向けると、フィリピンなどで新しいIRの開発計画が進んでおり中期的に競争が激化するでしょうが、経済成長に伴う市場拡大で吸収できる見通しです。
2つのIRが生み出した経済効果
シンガポールは人口531万人(日本の約4%。以下とも2012年)、GDP2765億ドル(日本の約5%)、面積は716㎡(東京23区と同程度)の都市国家であり、IRの目的はビジネス、観光両面の振興です。
実際、シンガポールのインバウンド観光客数は2009年には968万人でしたが、2013年には1550万人まで拡大しました。また、年間観光収入は2009年には126億シンガポールドルから、2013年には235億シンガポールドルまで拡大しました。ちなみに、2013年の年間観光収入はGDPの約7%を占めました。シンガポール政府は中期目標として2015年に観光客数1700万人、観光収入300億シンガポールドルの達成を掲げています。それが達成できるかどうか注目されます。
IRの経済効果は、観光収入の拡大に加えて、設備投資、雇用増加、その波及効果など多岐にわたります。2つのIRの直接雇用は2.6万人(マリーナベイサンズ1.2万人、リゾートワールドセントーサ1.4万人。店舗、ユニバーサルスタジオの従業員を含む)に達しました。
カジノを外資に任せた数少ない事例
シンガポールは人口531万人(日本の約4%。以下とも2012年)、GDP2765億ドル(日本の約5%)、面積は716㎡(東京23区と同程度)の都市国家であり、IRの目的はビジネス、観光両面の振興です。
実際、シンガポールのインバウンド観光客数は2009年には968万人でしたが、2013年には1550万人まで拡大しました。また、年間観光収入は2009年には126億シンガポールドルから、2013年には235億シンガポールドルまで拡大しました。ちなみに、2013年の年間観光収入はGDPの約7%を占めました。シンガポール政府は中期目標として2015年に観光客数1700万人、観光収入300億シンガポールドルの達成を掲げています。それが達成できるかどうか注目されます。
IRの経済効果は、観光収入の拡大に加えて、設備投資、雇用増加、その波及効果など多岐にわたります。2つのIRの直接雇用は2.6万人(マリーナベイサンズ1.2万人、リゾートワールドセントーサ1.4万人。店舗、ユニバーサルスタジオの従業員を含む)に達しました。
カジノを外資に任せた数少ない事例
世界のカジノ市場における、シンガポールの特徴は、施設数を2つに限定、ノンゲーミング施設を重視(カジノ色を希薄化)して統合リゾート化を徹底、都市計画全体の中でIRを位置付けた、などです。日本はシンガポールから学ぶべきものは多くあります。上記の3つの特徴は日本でも重視される方向です。
ただし、政策目的には大きく異なる点があります。シンガポールの目的は、インバウンド観光の促進、都市競争力の向上でした。日本のIRの政策目的は、それらに加えて、日本の文化や産業の魅力の発信、すなわちクールジャパンの推進に重点を置きます。
日本のIRは施設コンテンツ、超過収益がクールジャパンに貢献することが強く求められます。シンガポールは都市国家という特殊な環境下にあり、みずからをアジアと欧米のハブと位置づけ、アジア、米国の事業者にIRを任せました。シンガポールは世界の先進国の中で、カジノを外国企業に依存したほぼ唯一の例です。日本は世界第3位の経済規模、世界トップクラスの産業層、長い歴史が形成した独自文化があります。おのずから日本が目指すIRはシンガポールとは異なってくるはずです。