マカオは半島部分と島部分から成り立ち、人口65万人、面積が30k㎡という小さなエリアです。ちなみ東京の世田谷区は人口84万人、面積がおよそ60k㎡あります。マカオがいかに小さいかが分かるでしょう。
2013年のマカオへの訪問者数は2932万人でしたが、出発地の比率は、中国本土が64%、香港が23%を占めており、中国だけで約90%を占めていることになります。
マカオのカジノ産業の歴史は古く、ポルトガル領であった時代から存在していました。1962年から2002年まではスタンレー・ホー氏のSTDM社(マカオ複合観光会社)がカジノ経営を独占してきました。マカオ政府は2002年にカジノ経営権の国際入札を実施し、市場を開放しました。現在は6事業者がコンセッション(免許)を保有し、35施設を運営しています。
この6社とは、Galaxy Entertainment Group(中国資本主体)、MGM China(米国、中国資本主体)、Melco Crown Entertainment(中国、オーストラリア資本主体)、SJM Holdings(中国資本主体。STDM系列)、Sands China(米国資本主体)、Wynn Macau(米国資本主体)です。6社とも香港証券取引所に上場しています。
6事業者のうち、3事業者は米国資本主体ですが、実際にはコンセッションの比率以上に中国資本の影響力が強い状況です。この要因は、①マカオ政府が事業者に対する拡張計画の割当と許認可権を持っていること、②中国資本のジャンケットがVIP(高額賭け客)のゲーミング税控除後の売上高の約7割を獲得すること、③マカオ資本の導入を義務付けていること、④サービスアグリーメント事業者(中国系のコンセッション保有会社との合弁でカジノ事業を運営)が多数存在する、などです。
コタイ地区でのIR開発が本格化
マカオのカジノ施設は、半島、タイパ、コタイの3エリアに集積しています。カジノ産業は歴史的には、半島で発展しており、半島の施設は主としてカジノホテル(カジノを含む大型ホテル)です。そうした中、2006年以降、コタイ地区の埋め立てが完了し、新たな大型開発が相次いでいます。
コタイ地区には大通り(ストリップ)が設けられ、6事業者がカジノ、ホテルだけでなく、エンタテインメント、コンベンション施設を含む大型の統合リゾート(IR)の開発を競っています。2007年8月にオープンした「The Venetian Macao」がマカオの大型IRの先駆けです。2015年以降、新しいIR施設群が開業ラッシュを迎える予定です。
コタイ地区でIR建設ラッシュ
半島の伝統的なカジノホテルの場合、訪問者の目的はカジノゲームをすることです。一方、コタイ地区のIRでは多くのファミリーを見ることができます。コタイ地区のIRの場合、訪問客がカジノに訪問する比率は、おおむね6割前後と推定されています。
マカオでは、カジノ、IRの開発に合わせて、交通インフラの整備も進んでいます。マカオと中国本土との高速鉄道の接続、マカオ、香港、広東省の3地域を結ぶ海上橋の建設などです。IRの建設ラッシュ、中国の経済成長、交通インフラの拡充が三位一体となり、マカオのカジノゲーミング市場は中期的にも高成長を持続する見通しです。
マカオ政府が総量を管理
マカオにおけるカジノ運営の特徴は、政府が総量管理を行っていること、クラスター効果(集積効果)を発揮していることです。
マカオ政府は施設拡張、カジノのテーブル数など設備量を管理しています。中国という単一大型経済圏で、供給がコントロールされているため、カジノ事業の唯一の収支リスクである過当競争の懸念がありません。ゆえに、事業者は半永久的に高い業績を期待できます。実際、6事業者の営業利益の合計は年間6000億円ですが、すべての事業者が巨大な利益を確保しています。
もう一つの特徴は、クラスター効果です。世田谷区の半分という狭いエリアの中で6事業者が集客と開発競争を繰り広げる結果、訪問者はエリア内を回遊し、各社の多様なアトラクションを一度の滞在で体験できます。また、事業者、施設が沢山ありますので、スクラップ&ビルドも容易で、常に新鮮な魅力を提供できます。
カジノ推進の政策目的には、税収確保、地域経済の活性化、インバウンド観光の促進、文化や産業の魅力の発信(コンベンション施設運営を含む)などがあります。マカオでは、このうち税収確保、地域経済の活性化に重点が置かれています。一方、日本ではインバウンド観光の促進、文化や産業の魅力の発信、すなわちクールジャパン、ビジットジャパンの推進に重点を置く予定であり、おのずと注力するポイントは異なります。
日本においても、政府が総量を管理する方向です。これによりコンセッションを得た事業者の高収益を保証することになりますので、事業者には日本への再投資という義務が発生します。ただし日本ではマカオのような集積エリアを構築せず、単独のIRを全国に最大10カ所ほど設置する考えです(IR議連の考え方)。すなわち、各IRは地域社会(産業、観光資源、インフラ)との協力関係、信頼関係を築くことが求められています。
ソース:http://toyokeizai.net/articles/-/42573